ニュースの概要
西武不動産とリブランは、東京都豊島区にある西武鉄道所有の土地で、全住戸に防音室を設ける賃貸住宅の計画を始めた。西武グループとしては初の取り組みである。計画地は池袋駅と椎名町駅の間にあり、目白駅から徒歩8分、池袋駅から徒歩10分の距離にある。建物は木造2階建てで、2LDKが全4戸。竣工は2027年8月、入居開始は同年9月以降を予定している。各住戸の1階に遮音性能の高い防音室を置き、床を躯体から浮かせる浮き床工法と、壁と天井も躯体から切り離すBox in Box工法を組み合わせて音の漏れを抑える。
引用元: 西武不動産とリブラン、全住戸に防音室を備える賃貸住宅計画を始動(PR TIMES)
分析・見解
全4戸という小さな規模が示す実験的な性格
全4戸という数字は、収益事業としては小さい。大規模マンションなら、設計や施工の追加費用を戸数で薄められる。4戸ではそれができない。つまり今回の計画は、利益の最大化よりも、防音室つき賃貸に需要があるかを確かめる試験の色合いが濃いと読める。
鉄道会社の保有地を使う点も見逃せない。沿線の遊休地を、分譲ではなく賃貸で活用する選択は、土地を手放さず長く収益を得る発想に近い。小さく始めて反応を見るには、ちょうどよい形である。
浮き床とBox in Boxは、音を建物から切り離す仕組み
音は空気を伝わるだけでなく、床や壁といった建物の骨組みを震わせて隣室や階下へ届く。浮き床工法(=床を防振材の上に載せ、骨組みと直接つなげない方法)は、足音やピアノの振動が躯体に伝わるのを防ぐ。Box in Box工法(=部屋の中にもう一つの箱を作る方法)は、壁と天井も躯体から離して二重にする。
一般的な防音賃貸は、既存の壁に吸音材を足す程度のものが多い。楽器可の物件でも、実際は時間帯の制限つきという例が少なくない。構造そのものを分ける方式は、その限界を越える狙いがある。
木造で防音室を作る難しさと、1階に置く理由
鉄筋コンクリートは重く、それ自体が音をよく止める。木造は軽いため、低い音が伝わりやすい。ピアノやドラムの低音、映画館のような重低音は特に厄介である。そこで防音室を各戸の1階に置いた。地面に近い階なら、振動が他の住戸へ回り込みにくく、荷重の面でも有利になる。
ただし、木造に重い防音設備を入れると、建物の揺れ方や柱にかかる力が変わる。構造計算の精度が、完成後の性能を左右する。実際の遮音数値がどこまで公表されるかは、評価の分かれ目になる。
在宅時間の増加と楽器可物件の不足が追い風になる
在宅勤務やオンライン会議が定着し、家の中で音を出す人も出す機会も増えた。一方、楽器可の賃貸は供給が限られ、家賃も割高になりやすい。防音室を備えた2LDKは、楽器奏者だけでなく、配信者や録音を行う人、映画や音楽に打ち込む人にも届く。目白や池袋に近く、音楽大学や音楽関連の事業者が周辺に多いことも、需要の裏づけになりうる。
ビジネスへの影響
賃貸経営では、音の悩みを家賃の根拠にできる
賃貸の入居者が不満を持つ理由は、騒音が上位に入る。音の問題を設備で解決できれば、家賃を高めに設定する根拠になり、入居後の苦情や早期退去も減らせる。建築費は上がるが、空室期間が短くなれば回収の見通しは立つ。
オーナーが検討すべきなのは、全戸に防音室を設けるか、一部の住戸だけを特化型にするかである。まず1棟のうち数戸で試し、問い合わせの数や成約までの日数を測る進め方が堅実である。
事業者が確認したい三つの数字
第一に、追加工事の費用が1戸あたりいくらになるか。第二に、募集家賃をどこまで上乗せできるか。第三に、遮音の実測値をどこまで客観的に示せるか。性能を数値や第三者の測定で示せない物件は、内見者に信頼されにくい。
不動産会社や管理会社にとっては、募集図面に楽器可と書くだけでは足りない。どの音域まで、何時まで、どの楽器なら使えるのかを具体的に書くことが、ミスマッチを防ぐ。
沿線開発や中小オーナーへの波及
鉄道会社が遊休地で小規模な特化型賃貸を試す動きは、他の沿線にも広がる可能性がある。一般のオーナーも、立地の弱さを機能の強さで補う発想が使える。駅から少し離れた土地でも、音が出せるという条件は強い集客材料になる。まずは自社の物件で、近隣の需要と競合の供給を調べることから始めたい。
